シュールの本棚

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2 プーチンの秘密 KGBに選ばれた男

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KGB 帝国」表紙

 子供の頃からスパイになることに憧れていたプーチンは、学生時代に実際にKGB支部を訪ねた。支部の人間が「軍の出身か、大学の卒業生しか入れない」というと、プーチンは、教えの通りレニングラード大学法学部を受験する準備を始めたのであった。KGB職員と長い付き合いのある反体制派のウラジミール・ブコフスキー(1942–2019)は、プーチンを次のように評価している。
 「プーチンですか? 彼は自分の派閥とその職能権限を守ろうとしている冷酷な男です。特殊機関のためなら何でもするでしょうが、他の人のためには何もしないと思います。彼が国家元首なってから何が起こったでしょうか?
 特殊機関が前面に出て来て、ロシア社会のすべての分野に君臨するようになりました。特殊機関は行政府にも、立法府にも、実業界にも、市民の日常生活にも、犯罪組織にも、密接に関与しています。しかし、現在の特殊機関は昔、私がかかわっていた特殊機関(1960年代,70年代)のものとは違います。
 昔は、冷酷ではありました。特殊機関は共産党支配下にありました。レーニンの意向に従って、ソ連共産党の、そして政権の「力」だったのです。しかし、現在は、ソ連共産党は存在しないのに、その「力」だけが残っているのです。党や共産主義の理想に奉仕するのではなく、自分たちの名誉と権利、自分たちの財産のために働いているのです。特殊機関は犯罪組織に化けているので、近隣諸国にとってもロシア社会にとっても、大変危険な存在になってしまっている。(エレーヌ・ブラン「KGB帝国」6章 創元社 2006)

KGBの必要条件
 KGB工作員とはどのような人間なのだろう? プーチンがその典型だと言える。 冷静さ、辛疎さ、感情を表さない技、嘘をつくこと、芝居をすること、演出をすること、二枚舌、三枚舌の使い方などを教える KGBの特別養成学院で教育を受けた「チエーカー」の人間である。 彼らは命令には言目的に従い、いくら野蛮な指示を受けても、躊躇せずにそれを実行するように 教育されるのだ。
 この非常に特殊な教育にはスパイとして知らなくてはならない特殊技能や(先端技術も含む)、尋問方法や(心理的および肉体的拷聞を使用する)、心理的圧力(恐喝、脅迫、その他の 強制手段)が含まれている。さらに、人を殺すさまざまな方法(刃物、銃、毒薬、化学物質、細菌、 毒ガスなどの使い方)についても教えられる。押し入り強盗事件に見せかけて人を殺すとか、自殺や事故死に見せかけて人を殺すこと、爆薬の使い方なども教科課程に含まれている。 
ロシアでは、権力があり、有名であっても、金があっても、安心してはいられない。警察の警備、ボディーガードなどはなおさら信用できない。「悪魔が望むことは KGB が実施する」とも言われていたが、いまや、ロシア人は「提案するのは政府だが、決定するのはKGBだ」とも言っている。(「KGB帝国」同6章)