シュールの本棚

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41 富豪の世界 美術蒐集家

イェール大学英国美術センター(Center for British Art and Studies )

 ボール・メロン(1907 - 1999)はアメリカ第1のアート・コレクターであり、蒐集については非凡な才能の持主である。主としてフランス印象派と18~9世紀のイギリス絵画中心に集めているが、好きな絵な買い、しばらく持っていて、それを美術館へ寄付するというパターンを続けている。  メロン財閥は、一代目の祖父トマス・メロンが1870年にメロン銀行を創設したのにはじまる。二代目の父親のアンドリュー・メロン(1855 - 1937)は投資銀行の運営にかけては天才的な人物で、父親の資産を元に投資を行ない、フォード、ロックフェラーと並ぶアメリ三大財閥の一つにのしあがった。そして3代目のポールは、莫大な遺産をもとに美術品の収集にあてた。

 アメリカの税制は多額の金を息子に譲渡するいことを禁じている。そこで父親は財団を設立した。  ポールが寄付した金額をみれば、1933年から91年の間に、彼がどれだけ財産を相続したかがわかる。総計すると6億1100万ドル。そのうち1億4300万ドルは、父親が創立したワシントンの国立美術館へ。1億6400万ドルは、彼が英国美術のために建てた「イェール大学英国美術センター」に寄付した。ポールが美術品収集をはじめたのは、父が亡くなって10年してからだった。

 印象派のうち、ドガの彫刻コレクションでもメロン氏は有名だ。55年、ニューヨークのノドラー画廊にメロン氏が立寄った際に、ドガの彫刻の話が持ち出された。この好機を逃さず、メロン氏は40万ドルで一括してコレクションを購入した。しばらくして、うち5点をパリのルーヴル美術館へ、3点をケンブリッジのフィッツウィリアム美術館に、そしてワシントンの国立美術館に寄贈している。
 ポールは人文科学の進歩を目的として、1941年にオールド・ドミニオン財団(バージニア州財団)を、1945年に心理学者ユングの翻訳を出版したボーリンゲン財団を設立している。その後姉アリサの設立したアヴァロン財団と統合、その名を父に記念してアンドリュー・メロン財団と改称している。(出典 ノーマン他著「世界のトップ・コレクター」新潮社1993)