18「仏教の秘密」敦煌壁画
秘密18 自殺した沙弥が讃えられた戒律
中国甘粛省敦煌にある莫高窟(ばっこうくつ)は、1987年に世界文化遺産に登録された仏教遺跡である。
壁画の様式は、北魏時代のものは西方の影響が強く、仏伝・本生譚・千仏が描かれている。北周・隋唐時代になると中国の影響が強くなる。
●「自殺する因縁」
北魏時代の257洞穴の西壁に描かれた、「小沙弥(しゃみ)が戒を守り自殺する因縁」は「賢愚因縁経」にある。昔、1人の信仰心の厚い年輩の仏教信者が、子を徳の高い高僧に弟子入りさせた。高僧と弟子の衣食は、1人の在家信徒が届けている。ある日、この信徒は年ごろの娘を残して外出し、寺院に食事を届けるのを忘れてしまった。高僧は食が来ないので、弟子に信徒の家に食物を請うよう使いに出し、出発間際に五戒(殺生戒、偸盗戒、邪淫戒、妄語戒、飲酒戒)を守るよう諭した。使いの小沙弥が信徒の家に着くと、門をたたいた。少女はドアを開けると、そこに美しい沙弥がいるので、1目ぼれをしてしまう。彼女は小沙弥に握手し、心の内を打ち明けた。小沙弥は邪淫戒を破りたくないので自分だけ家に入ると扉に鍵をかけた。そして持っていた刀で自殺して、戒めに殉じた。少女は長く待てないので、ドアを壊して押し入ると、小沙弥はすでに死亡していた。少女は自分の過ちを責め、悲しんでうろたえた。信徒が家に帰ると娘は真相を訴えた。インドの法律では、僧侶が俗人の家で死んだら、罰金を納めなければならない。在家の信徒は国王に報告し罰金を納めた。話を聞いた国王は感動して、戒めに殉じた高尚な行為を讃え、広場に香木を積み、大衆の前で火葬にしそのあとに塔を建てた。
この壁画は南壁の中層に、連続絵物語式に描かれている。出家から火葬、起塔まで7枚の画からなっている。
挿絵は、「火葬」の場面で、小沙弥の遺体を火葬にする時、僧侶と大衆が小沙弥のために「早く昇天し、早く生まれ変わるように」と願う図。 出典 敦煌壁画白描精華「敦煌故事画」(上、下、甘粛人民美術出版社1998)